水と空気の流れを取り戻すために何ができるか B280『「大地の再生」実践マニュアル: 空気と水の浸透循環を回復する』(矢野 智徳)

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矢野 智徳 (著), 大内 正伸 (著), 大地の再生技術研究所 (編集)
農山漁村文化協会 (2023/1/18)

『よくわかる土中環境 イラスト&写真でやさしく解説』と合わせて読了。

高田宏臣 (著)
PARCO出版 (2022/8/1)

確か、小学校の中学年くらいの頃だったと思う。
屋久島に移住する前は奈良の田んぼが広がる田舎に住んでいて、山や川、田んぼや空き地が主な遊び場だったのだけど、ある時、ザリガニやいろんな生き物が住んでいた石積みの用水路があっという間にU字溝に置き換えられた。
当然、そこにいた生き物の姿はなくなり、遊び場の一つが失われ、その時そういう決断を下した大人たちをたいそう恨んだことを鮮明に覚えている。

またちょうど一年前、二拠点生活と称して日置市の山間で仕事を始めた。
職場であれば町内会には入らなくても良いと言われたけれども、ここの風景が気に入って入ってきたのでフリーライドはしたくなかったのと、何よりこの地での経験をすることが二拠点居住の目的だったので町内会に入ることにした。
定期的に道際や川の草刈りなど手入れがあるけれども、昔であれば、「どうせまた生えてくるのに草刈りに何の意味があるのだろう。むしろ自然のままに任せるという考えもあるのでは。」と思ったかもしれない。今は、そこに経験的に培われてきた知恵があるはずだと考えている。

そこでこの2冊を読んでみたのだけれども、いままでまるで見えていなかったものが見えてくる、風景の意味ががらっと変わってしまうような体験だった。

どちらも、同じような問題意識のもと書かれていて共通点はかなり多い。
あえて違いを書くと、大地の再生の方は、より実践的な内容で、自然環境が水と空気の循環によって保たれていることに加え、風の流れ(それが土中の水と空気の流れともつながっている)に重きを置いている。
土中環境は、実践より理屈を分かりやすく伝えることに重きを置いているようで、菌糸の働きへの言及も多い。

読後に日置の集落の風景を見てみると、ここでさえ、昔の知恵を置き去りにしてしまったことがたくさんありそうだし、集落の奉仕作業からも忘れられてしまった理屈がいくつもあるだろう。このままでは、人が減るに連れ知恵や技術の喪失がさらに加速度的に進むのは避けられそうにないし、都市部においては言うまでもない。
(と言っても、何度も書くように初心者の私には集落の先輩たちは先生である。)

ここでも、日本のこれまでの伝承形式の限界を感じる。(知恵や技術が伝承される際、その意味や目的が、様式に埋め込まれた形で背後に隠れてしまうため、様式が変化すると意味や目的も同時に極端な形で失われてしまう)

この2冊はその意味や目的を再度問い直すものであり、多くの共感者(特に若い人たち。今では建築の学生でも土中環境と言う言葉を使う人が増えているように思う。)を生んでいるのは、心の何処かで違和感を感じて納得できる知恵を求めている人が多いからかもしれない。

「土中環境」では特に自然災害に対する現在の土木技術の矛盾が浮き彫りになっているが、アカデミズムの世界ではどう扱われているのだろう。
ここで書かれているような原理が大学などで研究され、技術の置き換えが起こるような大きな流れが生まれて然るべきだと思うけれども、現状はどうなのだろうか。

それは当然建築においても言えるが、田舎はさておき都市部で何ができるのか、というイメージを育てるにはもう少し経験と実感が必要だ。

今朝、雨が降る前に、少しだけ庭の手入れをしてみた。
風の流れや空気感が少し変わった。
自分がほんの少し、この地に馴染めた気がして、気持ちが良い。





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