重層的な世界観が描く豊かさ B250 『点・線・面』(隈 研吾)
隈 研吾 (著)
岩波書店 (2020/2/9)
著者による2015年の著作『隈研吾 オノマトペ 建築』の理論的背景をもう少し丁寧に解説したような内容。
重層的な世界観が描く豊かさ
最初の章「方法序説」でのキーワードを挙げると、ヴォリュームの解体、構成から肌理へ、運動から物質へ、引き算から足し算へ、量子力学的相対性・重層性、超弦理論などであるが、以降の「点」「線」「面」の章では事例をもとに、それらが響き合う様子が描かれる。
本書では、点・線・面というカテゴリーに分けて、弦の振動を記述した。点・線・面と分類することが本書の目的なのではなく、むしろ全く逆に、それらがすべて振動であり、その現れであり、それゆえに決して点・線・面と切り分けることができないことを、明らかにしたいのである。(p.49)
おそらく、量子力学が、視点によって次元の現れ方が変わってくることを明らかにした(らしい)ように、同じモノでも視点によって点・線・面の現れる特性が変わってくる、もしくは、同時に点でもあり線でもあり面でもある、というところが肝である。
本書でも、点として捉えていた要素が線としての現れを獲得したり、面が点や線として現れることで、新たな可能性が切り開かれる場面が何度となく描かれている。と、同時にそれぞれは、点として、もしくは線、面として、生き生きとして振る舞っているように見える。
なぜ、点が点としてありながら、生き生きとして見える瞬間があるのか。
その秘密はやはり、その点が、線でもあり面でもありうる、という可能性の中に生きていることの方にあるのではないか。
その背後にある重層的な世界の危うさ・不安定さが豊かさの源泉としてあるのではないだろうか。
フラクタルが特異な次元を持つこと、ネットワーク理論が異なる特性を内包すること、流れが様々なスケールでスケールに応じたかたちをとること、もっと身近には音楽がいくつもの音を併せ持つこと、などにも重層的な世界観が描く豊かさが見え隠れする。
そういう生き生きとした豊かさを生み出せるようになりたい。