出会いの機会を拡げていく B314『まち保育のススメ ―おさんぽ・多世代交流・地域交流・防災・まちづくり』(三輪 律江, 尾木 まり他)

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三輪 律江 (著), 尾木 まり (著)他
萌文社; A4版変型 (2017/5/5)

やっぱり保育関連施設の設計は思いっきりやってみたい、ということで、4,5年前にやっていた、保育施設関連シリーズを再開してみます。

まずは、当時読んだまま、こちらに書いていなかった数冊から。

多様な出会いを担保するまち保育

以前、『まちの保育園を知っていますか』の会でも書いたように、子どもの成長には、多様な人や世界との出会いがとても重要です。

もちろん、園舎の中でも多様な出会いが生まれることを考えることは重要なのですが、出会いの機会を園舎の中に限定してしまっては限界があります。

例えば、日本の子どもたちは自己肯定感が低いと言われます。自己肯定感は、多様な関係性のもと、無条件で受け入れてもらえるような経験によって醸成されますが、家庭と園または家庭と学校の往復だけでは人間関係は限定的になりがちです。そこから、いかにして溢れ出ることができるか。

その出会いの機会をまちの中に拡げていこう、というのがまち保育の考え方ですが、園がまちへと流れ出ていくと同時に、まちが園の中へ流れ込んでいく、また、子どもたちが多様な出会いのもと成長するように、保育者や住民も同時に成長していく。そのような輻輳する関係性が重要だと感じました。

まちの資源を発掘し、つながる

また、まちといっても、都市と田舎では状況が異なりますし、まちの中の資源と考えられるものも異なってきます。その違いを認識した上で、その園なりのまちとの関係性を考えることが最初の出発点になるような気がします。

本書でも「保育施設✕地域つながり力アップ・マップワークショップ」という、おさんぽマップの製作を通じたワークショップを通じて、まちの資源を発掘し、地域との連携と深めていく試みが紹介されていました。
『まちの保育園を知っていますか』で松本氏がプロセス主義ということを言っていましたが、こういうつながりは、どこかで突然作り出せるものではなく、プロセスそのものに契機があります。
ですので、建物などのハード面だけではなく、こういうソフト面の試みを継続していくことが重要なのかもしれません。

インターフェイスとしての建物

では、ハード面ではどのようなことが考えられるでしょうか。
核家族化が一般化した現代では、保護者が育児に関わる不安等を気軽に相談できないまま抱え込んでしまっているケースが多く、保護者のコミュニケーションの機会をどう確保するかが一つの課題になっています。
本書では、例えばお迎え時の、保護者同士や、保護者と保育者のコミュニケーションが生まれる機会を分析していますが、その機会と建物のあり方は大きく関係しています。

例えば、防犯上敬遠されがちになっている、園庭から直接各部屋にお迎えに行くケースが保護者と保育者のコミュニケーションの場面を増やしていたり、玄関付近で子どもたちの様子も見れる庇のある屋外空間が、保護者間の会話時間を長く確保することにつながっていたりします。その際、靴を脱ぐ、という行為がコミュニケーションのハードルを高めることもあるようです。

このように、建物のあり方が、コミュニケーションの機会と深く関連することを考えると、園としての使い勝手や、安全性、子どもたちの体験の質なども踏まえた上で、建物をコミュニケーションを誘発するインターフェイス(接点)として考えていくことが重要になります。そして、この考え方は、まちとのつながりを考える上でも重要になります。

(まち保育に関しては、次の読書記録に続きます。)





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