関係性と自立性の重なりに向けて B267『四方対象: オブジェクト指向存在論入門』(グレアム ハーマン)

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グレアム ハーマン (著)
人文書院 (2017/9/26)

現代の一般教養の一つとして一度ハーマンを読んでおこうとだいぶ前に購入。
まだ感想がぼんやりしているが、今頭に浮かぶことを書いておきたい。

いいとこどりの見取り図

実在論もしくは形而上学的な、一つの理論によって世界を還元しつくすということに対して根本的な部分での欲求を持ち合わせていないため、また、知識不足もあって読み進めるのが少し難しかった。
けれども、著者のやろうとしていることは、人間、生物、非生物から概念や想像上のものまで、あらゆるものを一つの見取り図の上に並べて捉えられるようにすることではないか、というのはぼんやりと感じた。(ようするにいいとこどり?)

なぜ、私は還元に対する欲求に共感できないのだろうか。

実際のところ、唯物論的な見方、経験論的なあるいは現象学的な見方、どれが正解であるか、ということにはあまり関心がなく、それぞれそういう見方もできるだろうと思う。自分にとって重要なのは、それによって世界の見え方をどのように変えてくれるか、あわよくば、建築に対するイメージを更新してくれるか、ということに尽きる。
ただ、

四方対象の哲学がもつ明らかな価値の一つは、様々な知識を相対的に民主化することである。(p.222)

と著者がいうように、ハーマンの提示する見取り図は、その上にあらゆるものを載せて扱うことを可能にするのではという期待を抱かせる。

思えば、学生のころからアフォーダンスやオートポイエーシスに関心を抱き続けられているも、これらが、システムや知覚といったはたらきによって、人間からまちやコミュニケーション、意識といったあらゆる対象を扱えることを可能にするような懐の深さがあり、今なお新しい扉が開かれ続けているからかもしれない。(そういう意味ではハーマンの見取り図によって、これらを整理することも可能かもしれない)

建築のイメージを更新できるか

さて、本書によって建築に対するイメージはどんな風に更新できるだろうか。
(本書を読んだ目的は、ハーマンの影響のある建築を多少なりとも理解するための、最低限の教養を得るためだった)

それについては、内容をあまり理解できたとは言えないため、10+1の記事を参考にしてみたい。

10+1 website|オブジェクトと建築 ──千葉雅也『意味がない無意味』、Graham Harman『Object-Oriented Ontology: A New Theory of Everything』|テンプラスワン・ウェブサイト

ハーマンのすべてのオブジェクトが互いに退隠しており自立的である、という主張の重要性をあまり理解できていないので、ここではとりあえず、ラトゥール的な関係性、すべてはアクターであるとした際のネットワーク、もしくはドゥルーズ的な変化する関係性に注目した建築と、ハーマン的な自立性に注目した建築とでは、空間の質が異なってくる、という仮定のもと考えてみたい。

だが千葉にしたがえば、ハーマンが語る対象は、複数化されているとは言え、依然としてファルス的なもの、つまり〈意味がある無意味〉である。(10+1 website|オブジェクトと建築 ──千葉雅也『意味がない無意味』、Graham Harman『Object-Oriented Ontology: A New Theory of Everything』|テンプラスワン・ウェブサイト)

建築におけるハーマン的な自立性を考えた場合、それぞれの要素の自立性と建築総体としての自立性が考えられるが、前者はおそらく、モートン的あるいは門脇邸的な建築のイメージになるだろうし、後者はファルス的・シンボル的な建築のイメージになるだろう。また、そうした入れ子がそれぞれ自立したオブジェクトとしてある、ということにもなるだろう。

個人的な実感としては、関係性というものはある意味自立した存在の間に成立するものだと思うので、関係性を感じさせることと、自立性を感じさせることは実はあまり違わないのではないか、という気がする。

または、前回の『空間の名づけ――Aと非Aの重なり』での議論のように2項対立的な思考のうち一方を選択する思考ではなく、重なりを目指す思考として、関係性と自立性の重なりによるグラデーションとして捉えるということも可能だろうし、空間としてはおそらくどちらかのみ、ということはありえず、互いにもう一方を必要としているように思う。

(ただし、本書を何度も読み返すことで理解が深まった結果、より豊かなイメージを得られる可能性はおおいにあると思う。)

また、本書とは別に、先の10+1で挙げられたいた、千葉氏の『意味がない無意味』は読んでみる価値がありそうだ。
オブジェクトが自立的であることの空間的意義あるいは存在としての意義が、身体と行為との関連から見えてきそうな予感がするし、ここ数年でぼんやりと掴みかけているイメージをクリアにしてくれそうな予感がする。

もしかしたら、関係性と自立性の重なりは、「意味の深さ」のような度合いとして捉えられたりしないだろうか。

自分にとっての本書のポジションは『意味がない無意味』を読んだ後に定まるのかもしれない。





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