道理と装置 B275『エクセルギーハウスをつくろう: エネルギーを使わない暮らし方』(黒岩 哲彦)
黒岩 哲彦 (著)
コモンズ (2014/5/3)
前回読んだ本と関連して購入。『エクセルギーと環境の理論』でも著者の実践例が紹介されていた。
著者は、1198年に『エクセルギーと環境の理論』の著者の宿谷氏の研究室を訪ね、その後宿谷氏や当時大学院生だった高橋氏と協力しながら本書で紹介されている建築の構成を開発するようになったようだ。
(宿谷氏と高橋氏を含むメンバーは、2000年頃に『スレート葺き屋根の二重化と散水が日射遮蔽効果に与える影響に関するエクセルギー解析』という論文を発表している。)
エクセルギーハウスの二重屋根採冷システム
主要なシステムの概要としては、タンクに貯めた雨水の持つエクセルギーを太陽熱温水器なども活用しながら夏冬ともに活用するとともに、夏は二重屋根の間での散水による蒸発冷却によって天井の温度を下げるというもの。(その他にもいろいろ工夫があり、各地で実践もされていて面白いのだけど、ここでは二重屋根についてのみ触れたいと思う。)
二重屋根に関しては、二重屋根彩冷システムと言うよりは、小屋裏彩冷システムと言った方がしっくりくる。
まず、ある程度の断熱性能を備えた屋根により日射を遮蔽する。
その上で、天井の小屋裏側に貼ったガラスクロスの保水層に散水することで、持続的に蒸発冷却が行われるようにする。
また、天井材を熱抵抗・熱容積の小さいガルバリウム鋼板とすることで蒸発による影響をストレートに伝え温度変化を大きくする。
この小屋裏空間には風量調整の可能な窓(蓋)が設けられており、夏季に十分に換気が可能となっている。
実測研究の結果を見ると、室内温度は最高35℃程度まで上がったようだが、天井温度は24.5~28℃の間で推移し、室温より最大で8℃近く下がったという。(『雨水の蒸発を利用した二重屋根採冷システムの室内熱環境に関する実測と解析(2003 黒岩哲彦 高橋達)』)
人は室内気温より周囲の物体の温度が低い方が快適性を感じやすいそうだ。室内気温は一般的な常識で考えるとそれなりに高温だが、上の論文では入居者は概ね涼しさ・快適さを感じているようだった。
道理と装置
実際に屋根散水をやってみて(そして失敗に終わって)痛感したことだが、何かを工夫をするとしても、その理屈にそぐわないことをしても当然結果は出ない。
そういう意味では、研究者と協力しながら開発したこのシステムはやはり理に適っている。(どう理にかなっているかだいぶ分かるようになったのは、失敗してその原因を考えられたおかげだ)
しかし、理に適い過ぎているような気もする。
例えば、装置と道具について考えたときに、装置は、自動化されたもの、もしくは操作するもの、という身体とは切り離されたイメージがあり、道具は自ら扱うもの、身体性を伴うもの、というイメージがある。 そう考えると、「21世紀の民家」は装置であるよりは道具であるべきだ。 しかし、やはり家は道具ではない。「21世紀の民家」は道具であるよりはやはり家そのものであるべきだ。(オノケン│太田則宏建築事務所 » 21世紀の民家 B272『生きられた家 ー経験と象徴』(多木浩二))
これは、全く個人的な感覚だし、図や写真のみを見て「気がする」という程度のごく僅かな引っ掛かりに過ぎないのだが、その引っかかりの原因はなんだろうか。
一つは、大きな天井面が一つの機能と一対一で対応しているという、機能の現れ方とスケール感によるものだろうか。何か天井が人に対して背を向けているような感じをほんの少し感じ取ってしまう。
また、もう一つは、ガルバリウム鋼板という素材の持つ工業性と平坦さ、厚みのなさによるものだろうか。例えば、上からキメ・質感のある材料を塗ることで緩和することは可能だろうか。
あるいは、自動化されたシステムが目に見えないところに隠れていることによるものだろうか。何らかの方法でシステムを見えるようにしたり、関わる余地を取り入れることで引っかかりが楽しさに変わることはあるだろうか。
ぼんやりしているけれども、これらが何か装置ということばを頭に浮かび上がらせ、家との間に距離を感じさせるのかもしれない。
システムとしてよく考えられていて、とても参考になるし、批判するような意図は全く無いのだが、ごくごく個人的に何か重要なことがこの引っ掛かりに隠れている気がする。