新規プロジェクトの構造と環境シミュレーション
現在計画中のプロジェクトの構造と環境シミュレーションをしてみました。
こんな感じのプロジェクトです。
wallstatによる構造シミュレーション
弊所ではVectorworksというCAD(設計用のソフトウェア)とwallstatという耐震性能をシミュレーションするソフトウェアとを連携するため、プラグインを開発し、検討に用いるようにしています。
■現場進行中の物件をwallstatでシミュレーションしてみた。 – オノケン│太田則宏建築事務所
■wallstatへ書き出し可能な木造BIMツール|オノケン(太田則宏)
これにより、構造計画のどこが弱点になるかを視覚的に確認できるようになります。
シミュレーション結果をもとに弱点と思われる箇所を修正し、再度シミュレーションにかけるというサイクルを繰り返すことで、バランスの良い構造計画が行えます。
(地道にデータを構築するか、有料のソフトを使うことでも可能ですが、普段使っているVectorworksから直接wallstat用のデータを書き出せるようにしたことで、このサイクルをストレスなく迅速に回すことができるようになりました。)
シミュレーションでは阪神大震災の神戸の地震波でもほとんど損傷なく耐えられることが確認できます。(極稀地震ではびくともしない感じですね。)
熊本地震の教訓を元に、複数回に渡って地震波を与えても倒壊を免れることも確認しています。
Ladybug toolによる環境シミュレーション
構造と同様に、Vectorworks上でLadybug toolという環境シミュレーションツールを動かすための環境を開発し、検討に用いるようにしています。
■Vectorworks版Ladybugツール v0.1.0-beta 公開|オノケン(太田則宏)
これにより、その地域の気象データをもとに、エネルギー解析、日射解析、光環境解析がVectorwors上で直接行えるようになりました。(風環境解析のみ未対応で、他のCAD経由で検証しています。)
モデル化が必要なため、現実にそのまま合致するとは限りませんが、設計内容によって、どの程度のエネルギーを必要とし、快適性がどう実現できるか、各季節に太陽の日射熱をどこがどの程度受けるか、自然光だけでどの程度の明るさが確保できるか、などを比較検証することができるため、仕様決定の根拠を持つことができるようになります。
エネルギー解析
上図はUA値0.468 HEAT20 G1相当の場合です。主空間の暖冷房負荷のピークはそれぞれ4.5kW、2.7kW程度で、5kW(メーカーの14畳程度)の空調機でも十分なことがわかります。空調機の使用時間や温度設定等、生活スタイルにもよりますが、設定温度内は24時間空調として年間暖房負荷が7180Wh、年間冷房負荷が5066kWhとなりました。(ちなみに、本計画では西側に大きな開口があり、夏季はすだれ等で日射を遮ることを考えていますが、それは考慮していません。)
上図はUA値0.443 HEAT20 G2相当の場合です。主空間の暖冷房負荷のピークはそれぞれ4.4kW、2.6kW程度。年間暖房負荷が7013kWh、年間冷房負荷が4980kWhとなりました。この負荷の差分と断熱費用の差額、住人の生活スタイルを考慮することで、どちらを採用するかを検討することが可能となります。(思ったより年間の負荷は減っていません。効果をあげるにはもっと思い切った断熱強化が必要になるかと思います。今回は今のところHEAT20 G1相当の仕様を採用しています。)
上記の暖冷房負荷は断熱性能と空調機の制御を考慮しているだけですが、これに様々な工夫を付加すればエネルギーを消費せずに温熱環境をより改善することもできます。
例えば、庭のある西側にはすだれ等を掛けられる梁を現しにしていますが、そこで夏季の日射遮蔽をすると冷房負荷を抑えられます。またこの面は冬季に日射による熱を取り込むことに貢献していますが、デッキにリフレクターを設ければ、より暖房負荷を抑えられるかと思います。
日射解析
夏と冬の積算日射量を算出してみました。
ここで重要なのは、壁面、特に開口部において、夏は日射量が少なく、冬は日射量が多くなるように方位や庇の形状などを考えることです。当然、周囲の建物などの影響も考慮する必要があります。
同様のことを、3Dの動画シミュレーションでも検討してみました。(こちらの方がイメージは掴みやすいかもしれません)
夏の西面のみ遮断すれば、夏はほとんど日射を取り込まず、冬は比較的多くの日射を取り入れられることが確認できます。(ただし、壁面・開口部の割合が南面より西面の方が大きいため、暖房負荷の方が大きくなる傾向があります。)
光環境シミュレーション
この図は、DA値(Daylight Autonomy 年間を通して有人時間内で設計照度以上となる時間の割合)を表示したもので、自然光のみで500lx以上となる時間の割合を示したものです。
こちらは6月21日晴天時の各部の照度を表したものです。
リビング周りの主要な空間は十分な明るさが確保できています。家の中に明暗の差があることは悪いことではないですし、コストや空調負荷等も考慮し、それ以外の空間は明るさを重視しない設計としています。
(風環境シミュレーションの結果は省略します)
シミュレーションによる設計密度の上昇
ここ数年かけて、シミュレーションを用いた設計環境を構築してきましたが、これによって、設計の密度を大幅に上げることができ、根拠を持った検討を推し進められるようになりました。
また、断熱性能や設備機器の選定なども、予算やライフスタイルに合わせた無駄のない方針を立てられるようになったと思います。
→弊所では、シミュレーションを用いながら、お客様の希望や生活スタイルに合わせて設計していきます。具体的な相談はこちらから気軽にどうぞ。