B147 『オートポイエーシスの世界―新しい世界の見方』

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山下 和也 (著)
近代文芸社 (2004/12)


著者の方からコメント頂いたので読んでみました。

読んでみた感想は、『やられたっ!』です。いい意味で。

本書は2部構成になっていて前半がオートポイエーシス・システムの定義や性質などの説明、後半が「生命」「意識」「社会」といった具体例を基にしたオートポイエーシスの世界の解説となっています。

しかし、本書を読み進めていっても前半では具体例が全く出てこず、著者は見慣れないシステムの定義の説明に終始しています。
具体例が出てこないのでイメージが沸かず、延々と説明をされても著者の一人相撲を観ているようです。
だんだんと腹が立ってきて、何度が読むのをやめようかと思いましたが、第1部の終盤にくるとようやく、その不親切さが著者の意図したことであったことが分かります。

ずっと読んできて気づかれたとおもいますが、ここまで、議論が抽象的になるのも省みず、オートポイエーシス・システムの具体例を全く挙げずに論じてきました。また、具体的なシステムを連想させる述語もできるだけ避けてきました。若干理解しにくくなるのを覚悟でこうした論述方法をとったのは、オートポイエーシスの意味を適切に理解していただくためです。具体例を挙げますと、どうしてもそのイメージにとらわれて、オートポイエーシスの本質が見えにくくなりますので。(p98)

それから後は、それまでの欲求不満もバネになって、なるほどー、の連続です。

オートポイエーシスは普段私たちが見慣れている世界の見方を根本から変えることを要求してくる感じなので、おそらくこういう並びでなければよく分からない印象のまま誤解をして終わっていたかもしれません。

まさに構成の勝利、という感じです。
今から読もうという方も、著者の意図されているように第2部を我慢して第1部から読むべきですし、意味が分からずともなんとか第1部を読み切って下さい。

まだ、ここで説明できるほど理解できているとも言いがたいのですが、何度か繰り返し読むことで理解は深まりそうな予感はあります。

そんな中、最初にオートポイエーシスの本質に触れられた気がしたのは「オーガニゼーション(有機構成)」に関する以下の記述。

この言葉も一般的な意味とは異なって使われているので、注意が必要です。ここでは出来上がった組織ではなく、プロセスそのものの動的な連関関係を意味します。つまり、産出物のではなく、産出する働きそのもののネットワークがオーガニゼーションなのです。(p16)

物ではなく働きそのものを対象とするところにキモがありそうです。

簡単に言えば、オートポイエーシスとは、ある物の類ではなく、あり方そのものの類なのです。(p100)

いったんこういう見方をしてしまうと、なぜそれまでそういう視点がなかったのか不思議な感じがします。そうかと思えば、今まで身体に染み込んでしまった見方が戻ってきてオートポイエーシス的な感覚を掴むのに苦労したりもするのですが。

ところで、この理論によって建築に対する視点に変化を与えることができるでしょうか?

観察・予測・コントロールができないといっているものをどうつなげていってよいものか。というより、それ自体にどうやって価値を見出すか。

倉本さんのブログでも書かれている非線形の話や、伊東豊雄さんのスタンス、山本理顕さんの邑楽町役場庁舎との関連を見つけることも可能な気がするし、それとは少し違う話のようにも思う。

このへんはゆっくり考えてみたい。
建築そのものにはまだ還元できていないけれども、アフォーダンス理論では佐々木さんの著書等を通じてものの見方がぐっと拡がったのは確か。オートポイエーシスではどんな扉が開くだろうか。

ドゥルーズなんかとの関連なんかも興味があるなぁ。





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