B005 『CASA BARRAGAN カーサ・バラガン』
メキシコで活躍した建築家、ルイス・バラガン(Luis Barragan 1902-88)の住宅の作品集、というより写真集。建築家の斉藤裕が解説を加える。
テレビなんかでも紹介されたりするので、比較的知られている建築家だが、恥ずかしながら僕はじっくりと作品集を見るのは初めてだった。
掲載されているのは、バラガン邸、プリエト邸、ガルベス邸、サン・クリストバル、ギラルディ邸です。
とにかく、単純に、美しい。
『静けさは、苦悩や恐れを真の意味で癒します。どんなに豪華な、あるいは、ささやかな家であろうとも、静けさに満ちあふれた住まいをつくることは建築家の使命なのです。・・・』ルイス・バラガン
斎藤裕の解説文のタイトルが『生の謳歌』であるように、静けさのなかから生命感が溢れ出してる。
そういう感じです。
しかし、それはいったいどこからくるのだろうか。
バラガンの住宅はモダニズムの手法による徹底した抽象化という印象を受けるのと同時に土着的な、身体的な感覚を受ける。
この両者のバランスが、すばらしいのだ。抽象化とはこういうことか、と思わされる。
抽象化はまさしく日本建築のお家芸であったであろうが、バラガンは面の構成や色などにによって、物質を、光を抽象化する。
抽象化によって余計なものは削ぎ落とされ、自然、世界そのものを受け止める素地ができ、静けさのなかから生命感が溢れ出しているような場所と時間が生まれる。
また、バラガンはアシエンダ(大農場)の昔の記憶、原風景と呼べるものを大事に抱えていたようである。
そういうものがバラガンのバランス感覚を支えていたのだろう。
それは、バラガンの、そしてメキシコのものである。
おそらく、自分のなかにも原風景と呼べるものはあるし、割合大事にしてきているほうだと思う。
奈良の田舎で走り回った風景、遊び、屋久島の自然と生活・・・そういったものを改めて見つめ直したい気持ちになった。
また、この本で印象に残ったのは、建築家と施主の幸せな関係である。
施主はバラガンの住宅に誇りを持ち、感謝し、大切に住み続けている。
バラガンは幸せだ。
住宅もひとつの環境である。
環境とはおそらく与えられるものではなく、「関係」でしかないと思う。
施主と住宅(願わくば環境の全て)の「関係」をつくる手助けすることが建築家の職能のひとつだと思うのだが、今はそういうことは忘れられ、住宅でさえ商品となり、人々は受身で住宅を消費する。
自分の住宅(環境)と「関係」を結べるのは自分にしかできないのに。