おおくちたからばこ保育園で考えたこと。

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おおくちたからばこ保育園は、鹿児島県伊佐市にある既存倉庫の一角を企業主導型保育園として改装したものです。

この時に考えたことを、保育園等の計画で大切にしたいことと合わせてメモしておきます。

生まれて最初に多くの時間を過ごす場所

0~2才児の限られた期間を過ごす場所ですが、生まれて最初に多くの時間を過ごすこの場所が豊かな経験の場となることが望ましいと考え計画しました。

豊かな場であるべき保育園ですが、実際は単調なスケールで濃淡のない箱型のスペースが、まるで小さな学校のようにつくられることも多いように思います。この園では、それに対してどういうものをつくることができるか、を考えました。

多様なスケールを用意すること。

子どもたちが生まれてきたこの世界は、広大で多様な場所です。
その広大で多様な世界に、単に放り出されるでもなく、また、世界を小さく切り取って限定してしまうでもなく、徐々に関係性を築いていけるような場とするには、一つの単調なスケールのではなく、例えば、建築物としての大空間のスケールから、グループにマッチする少し大きなスケール、日常的・家庭的なスケール、子どもが籠れるような小さなスケールと入れ子状に多様なスケールが用意され、段階的に拡がってくるようなものが望ましいように思います。
そういう意味では、鉄骨造の大きな建物の一角ととして保育園があることは良かったと思いますし、園内もできるだけ多様なスケールの空間が存在するように配慮しました。
→参考 ■鹿児島の建築設計事務所 オノケン│太田則宏建築事務所 » B206 『KES構法で建てる木造園舎 (建築設計資料別冊 1)』

子どもの育ちを支える濃淡のある空間を作ること。

関東学院大学子ども発達学科専任講師の久保健太氏は育ちの場には濃淡のある空間が必要だと説いています。

学校の教室のような均質な空間では、どこで遊びこめばいいのか、どこでくつろげばいいのか、それがよく分からない場所になってしまいます。
一方、濃淡のある空間では、いろいろなスペースがあり、一人になることも出来るし、ダイナミックに遊ぶことも出来ます。そこでは、場所と気分が一対一で対応しており、移ろう気分にしたがって、濃淡を行き来しながら自由に過ごすことができます。そして、そこに学びが潜んでいると言います。

多様なスケールと重なりますが、この園でも気分によって様々に過ごせるような場を用意しました。それによって、子どもたちは強制されることなく自分たちのペースでゆったりとした気分で過ごすことができるのではと思います。

→参考 ■鹿児島の建築設計事務所 オノケン│太田則宏建築事務所 » B200 『11の子どもの家: 象の保育園・幼稚園・こども園』

「子どもが育つ」状況に満たされた場をつくること。

保育の場での子ども感は『子どもは、環境から刺激を与えられて、知識を吸収する。(古い子ども感)』から『自ら環境を探求し、体験の中から意味と内容を構築する有能な存在。(新しい子ども感)』へと変化しています。
子どもを育てるというよりは、子どもが自ら育つ環境を用意するというように変わってきており、それは保育所保育指針でも『育所は、その目的を達成するために、保育に関する専門性を有する職員が、家庭との緊密な連携の下に、子どもの状況や発達過程を踏まえ、保育所における環境を通して、養護及び教育を一体的に行うことを特性としている。』と明記されています。

そのような子どもが自ら育つ環境をどうすればつくることができるか。
具体的な環境づくりは保育士さんに求められる部分が多いかと思いますが、建築はそのきっかけとなるように多様であり、かつ行動を強制してしまわないようなおおらかな場所であるべきだと考え計画を行いました。
保育が始まってからも、例えばふじようちえんのように、どんどん「子どもが育つ」状況に満たされた場として進化していって欲しいと思います。

→参考 ■鹿児島の建築設計事務所 オノケン│太田則宏建築事務所 » B199 『環境構成の理論と実践ー保育の専門性に基づいて』
    ■鹿児島の建築設計事務所 オノケン│太田則宏建築事務所 » B203『学びを支える保育環境づくり: 幼稚園・保育園・認定こども園の環境構成 (教育単行本)』
    ■鹿児島の建築設計事務所 オノケン│太田則宏建築事務所 » B195 『ふじようちえんのひみつ: 世界が注目する幼稚園の園長先生がしていること』
    ■鹿児島の建築設計事務所 オノケン│太田則宏建築事務所 » B202 『平成29年告示 幼稚園教育要領 保育所保育指針 幼保連携型認定こども園教育・保育要領 原本』

「小さな学校」ではなく「大きな家族」として考えること。

歴史的に保育施設は、日常的な生活では学べない抽象的な知識を学ぶ場、「小さな学校」として誕生し、計画的かつ合理的な教育実践の場としてつくられた学校空間―無機質で四角く、管理しやすい空間―と同様の保育空間が良しとされ、定着してきました。

しかし、もともと、日常的な生活の場での育ちの場であった大きな家族としての地域コミュニティは縮小し、子どもたちは日常の育ちの場を失いつつあります
そんな中、保育園は、小さな学校(抽象的な知識を学ぶ場)ではなく、大きな家族(日常の生活の中での育ちの場)へと役割を転換することが求められます。

この園でも、日常的で家庭的なスケールと有機的な素材と空間の扱いに配慮をしました。(家庭でも有機的な素材と空間は失われつつあり、なおさらその意義は大きくなってきていると思います。)
また、オーナーであるクライアントの地域コミュニティへの姿勢から、子どもたちが大きな家族(地域の多様な人々)の中で育つことができるような環境も期待できるように思います。

→参考 ■鹿児島の建築設計事務所 オノケン│太田則宏建築事務所 » B200 『11の子どもの家: 象の保育園・幼稚園・こども園』


以上のように、子どもたちの豊かな育ちの場であって欲しいと考え計画を行いました。

今回、クライアントの理解と場所の特性(もともと倉庫の搬出入用のため入り口が高い位置があったため、内部の構成に変化を与えることに合理性があった)のおかげもあり、豊かな場作りに貢献できたのではと思います。また、今後もより豊かな場へと育っていって欲しいと思います。





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