滑稽な弱肉強食 B326『動的平衡は利他に通じる 』

朝日新聞出版 (2025/3/13)
本書は、朝日新聞での連載「福岡伸一の動的平衡」を書籍化した「ゆく皮の流れは、動的平衡」をさらに追記、改題したもの。
内容は、軽いエッセイ集のようなものなので、学術的な奥行きを味わう類のものではない。
だけど、その分面白くスラスラ読めた。
すべてはこの『動的平衡は利他に通じる 』というタイトルに凝縮されているように思うけれども、これは生命の不思議について、もしくはエコロジーという問題を考える上でとても大きな視点だと最近強く思うようになってきた。
生命は利己的にみえても、そのあり方として根本的に利他的な存在だといえる。だからこそ何億年ものあいだ生命を途切れさせることなくつないでこれた。このあたり前のことをあたり前のこととして頭と身体に染み込ませていく。そんなことがやはり大切なのだ。
そんな時にふと、「弱肉強食」という言葉が頭に浮かんだ。
この言葉を聞くことは最近はめっきり減ってきた。だけど私が若い頃はまだ、「弱肉強食」はなんとなく世界の真理の一つのような雰囲気をまとっていたし、20代前半くらいまでは実力主義のような社会に正義を感じていたりもした。
それも今思えば少し滑稽だ。
そこには、ごく限られた領域にのみ焦点を当て、あたかも全てを理解したかのように振る舞う狭量さが垣間見えるし、生命はダーウィンが示した自然淘汰のイメージよりも、ずっと複雑で、曖昧で、弱々しくもあり、時にずる賢い。そして、面白い。
そして、この面白さを建築に取り込まない手はない。
最近はそんなことばかり考えている。