二-三 五つの探索モード―重なりと責任
探索モードの重なり
人の知覚をベースとした出会いの探索には五つのモードがある。一つは先に書いた「重力」との出会いを探索するモード。後の四つは、「見え」「音」「感触」「味と匂い」のそれぞれとの出会いを探索するモードである。
知覚をベースにしたそれらのモードは、実際には複数のモードによる出会いが重なりながら、一つの出会いの感じを生み出す。
例えば、洞窟の中に温泉があったとすると、そこでは、暗闇の中の水面の光といった「見え」、洞窟で反響した水の「音」、温泉独特の肌触りや温度による「感触」、硫黄の「匂い」などといったそれぞれでの出会いが、この場所に特有の感じ、固有性を与える。
建築はそれらの全ての探索モードに関わることができ、その重なりによる固有性と出会える重要な存在だと言えそうだ。
おそらく、そこで生まれた固有性と多様に出会えることは幸せなことだろうし、その機会をなくしてしまうことはもったいないことなんじゃないだろうか。だとすると、そこには次の世代に対する責任があるはずだし、建築における出会いの形式を守ったり、新しく考えたりすることには倫理的な意味があるように思う。
人は建築で、出会いの重なりによる固有性と出会う。そして、そこには次世代に対する責任がある。