B066 『日本建築における光と影』
桜井 義夫、ヘンリィ・プラマー 他
エー・アンド・ユー(1995/06)
『a+u』の臨時増刊号には完成度の高い本が多い。
中でも僕のお気に入りは1995年6月臨時増刊のこの本。
まさに永久保存版。
ヘンリィ・プラマー著の光に関するものには続編もあるが、やはり最初のもののほうが原点に還れる。
タイトル通り、日本の建築の光について書かれた『陰翳礼讃』的書物。
載っている写真も素晴らしいけれど、かなりのボリュームの文章および光に関する引用文は、どれも密度が高く、詩的で、イマジネーションを刺激するものばかり。
日本のような霞の国では、・・・・・我々と世界の間に存在する光は、無色透明な媒体に溶けて広がり、そのレンズを通して見るすべてを空虚にするエーテルとなって、景観に幻覚のような捉えどころのない雰囲気を与えているのである。
希薄化という光の質は日本のゲニウス・ロキを決定しており、それが古代人の感覚や心理形成に奥深い影響を与えたにちがいない。(第1章より)
光がかすむ様子は見るものにとって鎮静作用を発揮するが、それは灰色や闇、透光性が感覚を奪い取るのに類似している。触覚を失い、分子状のヴェールの中にすべてのものが沈んでいくと、心や眼は落ち着きを持ち始める。ぼんやりとした世界に視覚を失うと、途端に神経は緊張を解き魂はくつろぐのである。(第6章より)
どこをとっても、日本的な奥行きのある空間そのものを感じさせる文章に溢れているのだ。
第1章:月影の灰色・・・第4章:色づく影・・・第9章:生け捕る第10章:移ろい・・・と目次を見るだけでも想像力をかきたてられる。
光に色があり、密度があり、湿度があり、生や死がある。
そういう基本的なことを奥行きをもって感じさせてくれます。
それをものとして結実させるにはけっこう腕が必要。
ただ、日本人の中の光に対する感受性は、蛍光灯の明るさ信仰によって忘れられつつある。
その責任の一端は(多くは)僕らにもある。