スケトレメモ おいしい姿勢・音・手触り・味と匂い・見え
共変による固有の場
「おいしい姿勢・音・手触り・味と匂い・見え」はギブソンによる5つの知覚システムに対応するおいしい知覚であり、複数の知覚システムが同時に共変することによって一つの意味のありかを特定する。
学生の頃にロンシャンの礼拝堂を訪れたことがあるが、その時、感じのよい老夫婦が賛美歌を歌い出し、とても荘厳な雰囲気を味わった。
マッシブな屋根が壁と縁を切られて宙に浮くような表現、エコーする歌声、手触りを感じさせる仕上げ、味や匂いは記憶に無いが、その壁を這いながら差し込む光。
それらの共変によって、ここにしかない固有の場が確かに生まれていた。
クチュリエ神父がコルにロンシャンの設計を依頼した際、最初、カトリックではないコルは頑なに断っていたそうだが、神父は、カトリックでないことは問題ではない、信心深い人々を受け止める芸術と霊性こそが必要だとコルを口説き落としたそうである。それは、さまざまな知覚の共変によって達成されたと言って良いかもしれない。
実作より
トップライトから光が落ちる土間の壁を、凹凸のあるものにし、そこに等間隔で棒を設置した。
これは、光を砕くことによって壁の手触りを視覚へと変換し、同時に感じられるようにした共変の試みの一つと言えそうな気がする。
物理的な音の質は置いておいて、洞窟の中のような守られた場所に響く音、を感じさせるような、形状、素材の選択、光の取り入れ方、を行った。
これも、音の感じを基準として、いろいろな要素で一つの意味を浮かびあがらせるような、共変の試みと言えそうな気がする。
これは、スラブを片持ちとして宙に持ち出すこと、柱と縦樋を混在させた鋼管、屋根・天井や建具・ガラスの扱い等によって、建築そのものの姿勢(構造・重力の感じ)に対する、一般的な経験からのずらし、意味の発生を狙った。
これらの例は、これまでに、実物を見て回ったり、本で建築を見たりした時に「おいしい」と感じた体験を、実作において、その時の種々の条件のもとで再構成する試みであって、そういう体験と不変項の抽出・ストックは、今も昔も大切なんだな、と思う。