焦点を絞れる状況を作る B327『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド』(Camille Fournier)

オライリージャパン (2018/9/26)
今年の3月からフローワークスという会社に参加して、主にシステムの開発などを行うことになった。本業の建築設計と2足のわらじを履くかたちだけど、吹上での活動を加えるともはや何がメインなのかよく分からない。
子どもの頃からプログラムが(というか”つくる”という行為は何でも)好きでのめり込んでいたし、数年前からは設計業務にプログラムを取り入れて効率化をはかる、ということにも力を入れてきた。
とは言え、プログラムは全くの独学で、自分にどの程度のスキルがあるのかという立ち位置は想像もつかないし、おまけになぜか技術開発の管理者も引き受けることになってしまった。
これまで、独立してからはずっと一人でやってきたし、勤務時代も部下はおろか後輩すらいない環境で、基本的には担当者として一人で案件をまわすというような経験しかない。
組織、あるいはチームとして仕事をする、というような経験は皆無だけれども、引き受けてしまった以上は、開発エンジニアとしても管理者としても責任を果たす必要がある。
ということで、自分なりに勉強を始めたので忘備録的に学んだことをまとめていこうかと思う。
建築とはあまり関係がないけれども、とりあえずは10冊程度を目処にこちらの視点から書いてみよう。(その後は再び個人的な関心に対する研究に軸を戻す予定)
エンジニアとしての管理者
この本は著者の経験をもとに、新人時代からテックリード、複数のチームの管理者、CTOなど、それぞれのポジションにて配慮すべきポイントがかなり具体的に書かれている。
抽象性よりは具体性に軸足を置いた書き方なので、自分の経験と照らし合わせながらでないといきなり本質的なことは掴みづらい。しかしそれゆえに、自分の立ち位置と経験に合わせてその時々に得るものがある長く付き合うことになりそうな本である。
とりあえずは今の自分で感じ取れることに対ししてしか書けそうにないけれども、まずはそこだけでもメモしておきたい。
さて、エンジニアとしての管理者は、どうも一般的な管理者とは少し違うスキルも要求されるらしい。つまり、プロジェクトの全体を計画し、進行を管理するにはエンジニアとしての能力・理解・勘が必須であるようで、それなくしては必要な役割を果たすことができない。
個人的には管理者のような仕事は御免だ(できれば余計な人間関係に煩わされずに生きていきたい)と思っている自分が、それなりに興味を維持できているのはその特殊性のおかげかも知れない。
また、この関係性は、建築設計者と現場の関係にも似ている気がする。
設計者は、絵を描くだけでなく、技術的な実現可能性に対するイメージを持っている必要があるし、現場をうまく進行させるには現場監督や職人さんたちとの信頼関係も重要である。
そういう点に対して、自分なりにこだわりを持ってやってきたから、なんとか管理者まがいのことがやれているのかもしれないし、逆に管理者としての経験は建築の設計・監理に対しても良いフィードバックになるように思う。
焦点を絞る
この本を読んでいて、何度か出てきた「焦点を絞る」というような表現が妙に心に残った。
自分が役割を果たす上で何に焦点を絞るのか、ということはもちろん、チームのメンバーが焦点を絞れているか、というのが重要そうだ。
チームとしての仕事を経験をしてみると、人によって焦点の絞り方にもいろいろなスタイルがありそうだし、本質的な部分に焦点を絞りそれを展開することが得意な人もいれば、焦点を絞るのが苦手で漠然と作業を進めることが癖になっている人もいる。
独りで進めるのであれば、焦点を絞りすぎずに漠然と全体を進めるのでも良いかもしれない。
しかし、チームでプロジェクトを進行するにはさまざななメンバーがパズルのように組み合わさって有機的な全体として進む必要がある。(そして、プロジェクトには納期があるし、他のメンバーにも予定がある。この辺は建築の現場と同じ。)
タスクを分解し、それぞれが焦点を絞れる状態をつくる
まず、エンジニアとしての管理者として必要な能力は「タスクを分解し、それぞれが焦点を絞れる状態をつくる」ということなのではないか、と現時点では感じている。
複雑なプロジェクトではそれぞれが思い思いに動いているだけでは、なかなか成果物にたどり着けない。
まずは、各メンバーの特性・得意不得意などを考慮した上で、プロジェクト全体を小さなタスクに分解し、それぞれが同時に作業しつつ進められる形に並べ替える。そして、それによってそれぞれが焦点を絞ってタスクに向き合える状態をつくる。
そうすれば、それなりにプロジェクトが前に進む状態を整えることができるように思うし、そういう絵を描くスキルが管理者に求められるように思う。
そして、そのためにはやはり、プロジェクト全体を理解し、それを実現するための技術をかなり掴んでおく必要があるし、絵を描くためのイメージに置き換える、もしくはある程度勘で捉えて大きく外さないような能力が必要かもしれない。
また、タスクを分解し、焦点を絞れる状態を整える、と言っても、それぞれが言われたタスクをこなすだけの受け身の状態になってしまっては最悪だろう。それは、焦点を絞れているのではなくて焦点がない状態なんだと思う。
おそらくだけど、焦点を絞るというのは、言われた作業をこなすことではない。
焦点が絞れているというのは、自分の役割と責任の範囲が明確になっている状態ではないか。そこでは、その役割と責任を果たすためにそれぞれが考え工夫する必要があるし、それぞれの立場からチーム全体の進行と顧客に提供する価値といった、俯瞰的な視点で自分の役割やできることを考え、それを明確にするように努めなければならない。
それはむしろ、責任が明確になり、より高度な思考と態度が求めれるシビアな状態なんだと思う。
各々がそういうふうに自律的に振る舞えるようになれば、チームは高度に有機的なシステムになりうる。
とは言え、誰もがすぐに無焦点から焦点が絞れている状態に移行できるわけではないし、何らかのコツを掴むための支援も必要だろう。
そのために管理者として何をなすべきか。
それは新米管理者にはまだまだハードルの高い課題だけれども、一つ一つ手応えを感じ取りながら模索していきたいと思う。
本書はそれに伴走してくれそうな良書でありました。
(それはそうと新米が待ち遠しい。イノシシの襲来にめげそうになるけれども、新米の美味しさを思い出すと頑張れる。)